明日やろうはくまやろう

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くまやろうが雑記します。とりあえず3/31までに50記事を目標に。

酒と煙草と失恋の夜を、優しく包む銀杏の芳香

銀杏boyzのライブに行ったときのこと。

ちなみにイベントスタッフとして、である。

それまで銀杏のライブには行ったことがなかったが、普段からよく聴いていたので楽しみにしていた。仕事といえど、会場内の配置ならライブが聴ける。ところが運悪く場外の配置だった。

昼過ぎからリハーサルが始まると、かろうじて音が漏れ聞こえることがわかり、小さく歓喜した。


僕の仕事は関係者スペースに一般の方が入ってしまわないように見張りをすることだった。


いやぁ…ヒマだ。

 

「関係者以外立ち入り禁止」と書いてあって来る人などいない。というかそもそも人がいない。

ほんでめちゃ寒い。

 

10度に満たない気温と強風の中、ずっと立っていなければならない。ベンチコートともらったカイロでなんとか寒さを凌いでいた。


会場間近になるとお客さんがみえ始め、入場口に列を作った。遠目に観察していて気づいたことがある。


お客さんが時間にルーズである。客足が遅いと思っていたら案の定、開演に間に合わない人が続出。ライブが始まってしばらく経ってもぞろぞろとやってくる。しかも全然急がない。

銀杏のライブは激しいって聞くし、お酒もオッケーだし、結構ラフな感じなのだろうか。


僕の配置から喫煙所が見えた。パイプのフェンスで囲まれた簡易的なものだ。
ライブ中にもかかわらず喫煙所には絶えず人がいた。
せっかくお金を出して来ているのだから、2時間くらい我慢できないものかと思ってしまう。

ライブはやっぱりあの一体感が良いのではなかろうか。


ライブも終盤に差し掛かった頃、一人の女性が勢いよく喫煙所に入ってきた、と思うと、泣きながら地面に座り込んでしまった。周りの人たちはちらっとは目を向けるが、すぐに知らないふりをする。
失恋でもしたのだろうか。


しばらくすると、缶チューハイを持ったおじさんが入ってきて、女性の隣にどっかりと腰を下ろした。最初、酔っ払って若い女に絡みにきたエロジジィかと思っていたが、どうやら顔見知りらしい。


「悪いってわかってたけど、ケータイ見ちゃったんです。そしたらやっぱり○○さんと会ってて。でも彼には幸せになって欲しいんです。だから私はいいんです」
「ばっか!お前はバカヤロウだよ。自分の幸せを考えろって」
「バカでもいいです。本気でそう思ってるんです」


そんなような会話だった気がする。
ようは彼氏が浮気したことがわかって別れたみたいなのだ。

おじさんがいくら励ましても女性の意思は固かった。しばらく大声での会話は続いて、他の人たちは次第にいなくなった。そしておじさんもついに諦めたのか、缶チューハイを置いて出ていった。


おじさんがいってしまうと、喫煙所は女性ひとりになった。彼女は右手に缶チューハイ、左手に煙草を持ったまま、また泣いた。
場外に漏れてくる峯田和伸の歌声がなんとも切なくて、それが正しい銀杏の聞き方みたいだった。

僕は彼女の邪魔にならないよう、じっとしているしかない。女性には悪いけれど、そのたったひとつの特等席が少し羨ましかった。


音楽の聞き方にもいろいろあるのだと知った夜でした。